ある主婦からの意見(市立六中の旧校舎解体に寄せて)

2005/07/09 (Sat)
ある主婦からの意見(市立六中の旧校舎解体に寄せて)日本人からリリシズムが失われつつあることは哀しいものだ。
かつてリリシズムは日本列島に暮らしする日本人がもち続けてきた伝統的な情感である。
本会に、主婦からの一通の投書が入った。目を通すと市立六中の旧校舎解体にまつわる市教育委員会の対応についてであった。
行政の不手際から入札をめぐり、疑惑騒然とした市立六中の新築工事は完了したが、電気工事の請負会社(山形市)が倒産し、しかもその工事の下受けをしていた2社(米沢市)は、市が禁止している「入札に参加していた会社」であったことなど、行政の甘い監督不行き届きなどが暴露されたいわく付きの工事だった。
問題は旧六中校舎の解体工事に因み、旧校舎に学んだ人をはじめとする米沢市内に住む主婦らが、歴史の温存や思い出を心につなぎとめておきたいものだとする思いから、解体する前に「校舎に残る部分品のひとつ」でも自分の周りに置いておきたいとの願いを、市の教育委員会に申し出たら、委員会では「人々の要請にいちいち対応してはいられない。解体工事は業者に依頼する市の直轄工事だから対応はできない」という返事だったと婦人は嘆く。
市の直轄工事であるならば、なおさらに思い出を望む人たちの願いを叶えるように、細やかな対応ができるはずだ。
行政の怠慢以外に何もない。ことは教育委員会の役割を考えてみるがいい。解体したら行政の仕事は済むのであろうが、歴史は蘇らないのだ。
小生ごとだが、東京駅の解体問題が浮上した時、歴史ある建造物を保存すべきだとして創立された「全国町並み保存協会」の、米沢市ではたった1人のメンバーである。
米沢市は上杉の城下町として観光行政に拍車をかけようとしているが、城下町の風情は何処にも見られない。
これらの原因は歴代首長に環境行政に対する明確な見識と哲学がなかったことにある。
歴史的所産は破壊によって断たれるのであり、歴史の重さはその歳月の長さによって語られるものである。
教育委員会の仕事だから一例を提供しよう。
長野県穂高町に建つ「碌山美術館」は深谷市の旧紡績工場の解体レンガを使用し、長野県人20万人の浄財と、レンガ運びに協力した小学生を含めて建てられたものだ。
国の重要美術品を2点収蔵する全国的に著名な美術館で、経営は穂高町の教育委員会だが、穂高町教育委員会が地元出身の彫刻家、荻原碌山(日本人としてロダンの一番弟子)の全彫刻の原型を何処にも散らさないで保存していた経過が、現在の美術館の意義を深いものにしているのだ。
それに比べ、わが米沢市の行政には人の古きものを忍ぶ心根や叙情的な心を軽んじている貧しさがある。
これでは他市に誇れるような冠たる教育の町とは縁遠い町に落ちぶれてしまったのも、むべなるかなの一言に尽きる。
今や母校を尋ねても校舎や校歌が変わって歴史の重みが分断されている現状だ。子供の頃の懐かしさを求める心では、冷徹な拒絶にあう。
あえていうが、戦後は伝統をわけもなく排斥した教育者たちだ。新しい校歌が必ずしも優れた校歌だとはどう考えても思えないものばかりだ。早稲田大学の校歌は戦前戦後を通していまもって歌いつがれている。伝統というものは歴史を創りあげるものだ。
ご婦人から夜遅く電話がはいった。
ご婦人いわく、教育委員会の方から電話があり「何が欲しいのか一緒に旧六中校舎にまいりましょう」というお誘いがあった、そこで「私の後でどなたかの電話があったのですか?」と尋ねたら「鬼の会から電話があった」と答える。
私は、教育委員会は他の人の電話によってこんなにも簡単に翻意するものかと情けなくなり、途端に懐古する気持ちが消えてゆくのがわかり「丁寧にお断りしたんです」ということだった。
「行政の対応に一市民として情けなさがつのるばかりだ」と言って電話が切れた。
教育委員会さえもこんな有様だから、米沢市が求める観光行政などを成功させることなどはこのままでは不可能なことであろう。
観光とは限りなくノスタルジアを求めて広がるものだ。その求めるノスタルジアの限界は江戸末期がそれであろう。
栃木の江戸村然り、馬籠妻籠の中山道の宿場町再現が最もいい例だろう。もはやコンクリートの高層ビルにロマンを持たない観光客である。
意識をかえ「日本の田舎町」をテーマに人々は忘れかけている日本人のリリシズムの回帰を求めている心を理解し、叙情に徹することが最も近道なのである。
古きものを懐かしむ心さえも理解できなかった行政である。今のままでは教育の町米沢市の建直しや、観光行政は失敗するだけであろう。

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