「正心誠意」?

2011/10/10 (Mon)
野田佳彦首相は13日(平成23年9月)、初の所信表明演説で、「政治に求められるのは、いつの世も、“正心誠意”の四文字があるのみです。…」と冒頭に言い、そしてむすびにも、「私は、この内閣の先頭に立ち、一人ひとりの国民の声に、心の叫びに、真摯に耳を澄まします。“正心誠意”、行動します。…」と「正心誠意」というキーワードで、この演説を締めくくっていた。これを聞いて(翌日の新聞紙面を見て)老生は、あれっ、と奇異に感じた。 この「正心誠意」とは一般に国語辞典には無い。
「誠心誠意(せいしんせいい)」とあるはずなのに新首相はあえて「正心誠意」と使った意図するところは何であろうか、と思った。
この「正心誠意」は、幕末・維新の政治家、勝海舟(1823~99)が自伝「氷川清話」に記した、いわば勝の造語だというのだ。 それで物好きにも勝がどんな文脈で使った言葉だったのかを調べてみた。
海舟は古今の人物を論じ、日本史上に残る江戸無血開城を実現した西郷隆盛を絶賛し 「男児世に処する」とは「ただ誠意正心をもって応ずるだけの事さ…」と、“氷川清話”にある。
つまり海舟が西郷に命がけの「誠意」をもって談判し、西郷の「正心」を引き出し、江戸開城を成し遂げられたということであると解釈し、これはまさに海舟と西郷二人だけの以心伝心的心をいう意味合いである、と思った。
14日付け毎日新聞の宮城征彦記者の署名入り記事によると、
「首相は演説を作成するにあたり、まず藤村修官房長官に基本的な考え方や政策課題を伝えた。勝海舟の言葉“正心誠意”に言及したのは首相の発想だという。そのうえで各省庁の意見を募り、推敲を重ねていった。
首相周辺によると、実際に原稿をまとめていったのは内閣官房の原勝則総務官で、首相と修正を繰り返した。政府高官は“野田内閣総がかり”だったという。」
この記事から、「正心誠意」は野田首相本人から出た言葉であることが窺え、思い込みを持ったものなのであろう、と斟酌される。
しかし、一般には「誠心誠意」と書き、“真心をもち、うそ偽りのない気持ち”を表す言葉を、敢えて首相は「正心誠意」としているのだが、原典(?)の「氷川清話」からの引用であることも断っていないし、また「正心」と「誠意」を前後逆にしていることになるのだから、あるいは海舟からの引用などではなく、松下政経熟で学んだ首相のこと、独自用法の言葉なのかもしれないが、だとしても、「正心」と“自らの心は正しい、あるいは自分の正しい心”というような意にとれることを、いの一番に主張するのは、少しく独善すぎないのだろうか。
やはり、ここは「誠心誠意」とまともな、人口に膾炙している四字熟語を使い、それこそ“真心をもって、誠意を尽くす覚悟を示す”所信表明演説であったら良かったのではないだろうか。
それとあってか、曽野綾子氏が、新聞のコラムに書いていたのを目にした。 (9月24日付 産経新聞)「このスピーチの問題点は、誰もがよく知っていて、しかも同意しない人などいないと思われることしか書いていないという点である。だからいいのではない。それではだめなのだ、ということだ」。
彼女は続けて「迅速、公平かつ適切な賠償や仮払いを進めます・早急に具体化してまいります・同じ地域に生きる者同士として信頼を醸成し、関係強化に努めます・意欲あるすべての人が働くことが出来る“全員参加型社会”の実現。これらのことすべてを、望まないという人はいないだろう。
つまり、改めて言わなくても、誰もが考え望んでいることの羅列である。しかも現実となると、迅速も、公平も、具体化も、信頼も、ふさわしい関係も、意欲あるすべての人が働くことも、実現しにくいことばかりだ」。
そして、「総理は、どうしこんな凡庸な文章しか書けないグループを、草稿の責任者にされたのか」とも嘆いているのだ。
曽野さんの物いいに力を得た私ではあるが、この所信表明演説は、「誠心誠意」を「正心誠意」と誤用(?)したばかりでなく、通りいっぺんで、人の心に訴えることのない内容の乏しいものであったのであった。
それを、その目先を変えるために海舟の言葉などを用いて、人々の関心をはぐらかしたのではないか、と言ったら僭越すぎるだろうか。
おらほの近藤洋介代議士は、野田佳彦首相を中心にするグループ「花斉会」の事務局長を担うそうである。
したがって、この度の首相所信表明演説草案作成に一役買った、と地元ではもてはやされているようである。
代議士は元日経新聞の記者であるから、それは得意分野であるかもしれないので、その役割を果たしたというのはそれなりに頷けることである。
ならば尚のこと、時の首相にそのような近い存在であるならば、演説草稿づくりに関わったとの程度のことで終えるのではなく、首相の思いを“凡庸”なものでなく、さらに国家、国民のため、さらには地元地域のためになるような施策を首相や内閣に強力に働きかけてほしいものである。
今、地元米沢は大震災の直接間接を問わず、いままでにない衰退状況であることを認識して政治的決断の早からんことを切に期待したい。
ゆめゆめ「田舎天皇」や「その番頭」の甘言に心惑わされる事の無きよう願いたいものである。

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